COLUMN

コラム

天然檜で作られた木桶とスツール、受け継がれていく想い (中編)

2022年2月24日

BAINCOUTUREがこれまで培ってきたバスルーム提案の経験を元に、新たに展開を始めようとする「Maison de Baincouture」。
前回のコラムでは木曽檜で出来た木桶とスツール、
そして制作に携わってくださった木曽生活研究所(株式会社Tree to Green)の小坂さんへのインタビューをご紹介しました。
中編では木桶とスツールを作ってくださった職人さまへお話を伺いたいと思います。

今回インタビューさせていただくのは株式会社桶数の伊藤 匠さんです。
3代続く職人一家の桶数さんでは、江戸時代から続く伝統的な技法で昔ながらの木桶を作っています。
前回に引き続きBAINCOUTUREの田中が、ものづくりの想いについてお聞きしました。

<2023年8月21日 追記>

オンラインショップ「Maison de Baincouture」がオープンしました。
お風呂時間を仕立てる様々な商品を取り扱っています。
下記リンクからご覧ください。

■桶づくりと、引き継がれていく想い

田中:今日は桶数さんの工房に来ました。バンクチュールのスツールと桶を作っていただいた職人さんです。
今回のバンクチュールの木桶とスツールは、桶数さんの作っていらっしゃった商品をバンクチュール仕様に改良していただいた商品です。
今日は色々と、そうした木桶づくりについてお話を伺えたらと思っておりますので、よろしくお願いします。
まず最初に桶数さんはいつから創業されていらっしゃるのでしょうか?

伊藤さん:初代が始めたのが、昭和16年(1941年)ですので、開業からちょうど80年ほどになります(2021年当時)。
元は「伊藤桶店」だったのが、初代が亡くなった後2代目が継いだ時、初代が「かずま」という名前なので「桶数」に屋号が変わりました。

今は僕で3代目になります。

田中:今回は浴室で使われる木桶とスツールを伊藤さんに作っていただいていたのですが、特に木桶のこの斜めにカットされたような形状が特徴的だと思います。
一体どんな風に作られているのでしょうか?

伊藤さん:実は加工自体はそれほど特殊なことはしていないのです。
長さが統一された桶が一般的ですので、それと比べると組み上げる初期段階は少し複雑な面がありますが、バラバラに切り分けた木材を丸く桶の形を整えて組み合わせるという、一般的なものと同じ構造をしています。

田中:そうなんですね。我々素人から見ると難しそうに見えますが……
普段見慣れている桶はフラットな形ですので、この特徴的な斜めの形状など、特殊な技術が求められるのではないかと思っていました。
今回は桶もスツールも、洋白タガを使ってもらっておりますが、タガはどのように作られているのですか?

伊藤さん:タガについては専用の金属屋さんで作ってもらって、それを僕が桶に使わせてもらっています。
タガにも色々な種類がありまして、こちらの洋白のものの他に、真鍮、銅タガ、ねじわがあります。

ねじわは金属の線を昔ながらの手作業でぐるぐると巻いてネジ状にしたものですね。

伊藤さん:同じタガでも、原料の金属が違えば溶接するのにかかる時間も加工も異なります。
例えば銅タガは熱伝導率がとても良いので少し怖いくらいの高温で一気に溶接していきます。それに対して真鍮や洋白となると、火を弱めてじっくりと時間をかけて溶接する必要があります。
僕は銅よりも真鍮や洋白の方が慣れているのですが、一般的な機械生産のタガを扱っている方々から見たら、真鍮や洋白の方が難しいのではないかという声をよく聞きます。僕から見たら逆では? と思いますけれど(笑)

田中:なるほど。他の桶屋さんでは取り扱っていないような素材も、桶数さんではどんどん取り入れているのですね。

伊藤さん:そうですね!僕としてもどんどん取り入れていきたいなぁと思っています。
昔ながらの技術を守ることも大事ですけど、現状に満足せず取り入れることは取り入れて、常識を壊すことも、これからの時代は残していくために必要なのではないかと思います。

田中:新しい技術や素材を取り入れることで、昔ながらの伝統技術から新しい商品が生まれるんですね。
ところで今回の木桶やスツールを作る技術も昔ながらの伝統的な技法かと思いますが、一般的な桶にはない桶数さんならではの特別な作業はありますか?
元々桶数さんで取り扱っていた商品をさらにバンクチュール仕様に改良いただいておりますが、それまでの印象的なエピソードなどありましたら教えていただきたいです。

伊藤さん:特別なことはしていません。
大事な心臓にあたる部分は昔ながらの、桶屋ならではの工法と道具を用いて作られています。
ただ、精神的なことですが、ものづくりには本気でいいものを作ろうと心がけて取り組んでいます。
例えば今回のスツールの元となった商品は、最初は僕ではなく2代目が依頼を受けて作ったものでした。
当時デザイナーさんが要望していたスツールは、今の完成したスツールとは異なるデザインでした。
2代目はそれに対して昔から培ってきた職人ならではの感性から改良を加えました。

当然デザイナーさんとも衝突したそうでしたが、デザイナーさんと職人どちらも「いいものを作ろう」という想いから議論しています。
時には喧嘩のように意見をぶつけ合いますが、そうした紆余曲折をしつつも、お互いに隠し事抜きにして話し合うからいいものができるのだと思います。

田中:デザイナーさんと職人さんの間で色々な議論があって、出来た商品なのですね。
非常にモダンな形状で、柔らかみがあって素敵な仕上がりになっていますね。

伊藤さん:ありがとうございます。

■「木も人間と同じです。」

田中:色々と種類のある木材の中で、この木曽檜の魅力はなんでしょうか?
また、木曽檜特有の特別な下準備などあったりするのですか?

伊藤さん:そうですね。檜には色々特徴があるのですが、中でも木曽檜は樹木の中では硬めの部類に入ります。
あと、特別かはわかりませんが、桶数では木材を扱いやすい大きさにカットした後、櫓状に積み上げて乾かします。

機械乾燥ではなく、何ヶ月、数年と自然に乾かすことで、商品として組み立てた時に木が収縮するのを防ぐことができるんですね。
そうした過程で元々狐色だった木材がネズミ色に変化します。
ちなみに、木肌や木口(こぐち)は人体のパーツと同じ表現をする箇所が多々あります。

よく『木桶とかってどう扱えばいいんですか?』と聞かれるのですが、人間が毎日ご飯を食べて、お風呂に入って布団で寝るように、桶も頻繁に使ってあげれば体(桶本体)にガタが来ないでいつまでも現役でいられます。

田中:なるほど、木も生き物と同じですから取り扱い方を間違えれば悪くなりますもんね。
木曽生活研究所の小坂さんも同じようなことをおっしゃっていましたが、本当に木材は呼吸をするものだからこそ、取り扱い方に気をつけなければいけない。しかし、だからこそ長く使える素材なのですね。
ところで、こうした檜が身近にある生活を小さくいらっしゃった頃から今も続いているのかと思いますが、何か特別な技術面での特訓などされていたのでしょうか?

伊藤さん:小さい頃は技術面というよりも「職人とは」「先人たちとはどうなのか」という精神面での指導が多かったと思います。
成長して思いましたが、技術的な話よりもこうした心構えを他人に伝えるのは難しいですね。
特に一般的な人に向けて伝える難しさを感じます。文献だけでそれを伝えるのは難しいです。
世間で見かける文献の考え方や文章は綺麗なんですけど、職人世界の実情が伝わらないんです。実情はもっと深く抱えているものがある。

もちろん楽しい面もありますが、それだけではないということを知ってもらいたいですね。
「まさか木材がこれほど高いなんて」ということから始まり、赤字になりながら買って、5千円から1万円の商品をいくつも作って、何百回も売って、やっと原価回収ができる……。
なかなか、報われるまでの時間と労力がかかって大変です。

田中:そうした苦労を楽しむ部分を持ってないと、事業として、ものづくりとして成り立ちませんね。

伊藤さん:好きでないと成立しないです。覚悟を持ってやらないと破滅します。

田中:しかし、人が物を魅力的にさせるってこともありますよね、それがものづくりに現れるんでしょうね。

伊藤さん:陶芸の世界で言う「心の乱れ」が作品に出るって話、あるじゃないですか。木材の世界でも同じことがあるなと感じます。
同じ作り方で商品を完成させても、迷いや気の乱れ・ゆるみがあると、それが完成品に違いとして現れます。同じ商品を作ったはずが、その迷った商品は納品した後作り直しの依頼が来た……なんてことになりかねません。

だからこそ、終始気を抜かず一点一点、作っています。

■天然の木だからこその魅力

伊藤さん:木曽という土地は江戸時代の頃から材料の良質さは知れ渡っている地域でした。
檜と謳われる木材はいくつもありますが、どれも元を辿れば木曽にルーツがあります。それくらい木が育つのに適した環境なんです。
木曽はずっと以前から元々林業の街でした。今では減っていますが、製材屋さんが昔はたくさんあったんです。

当時は製材屋さんをやっていれば驚くような儲けがある時代でした。
しかしそんな中で、初代は頑なに桶屋をやる人でした。
元々は県外の人間だったのですが、木曽の木に惚れ込んで移住して立ち上げたのが今ある桶数です。

初代が惚れ込んだほど、木曽の木は良質です。
また、木にも天然物と人工林がありますが僕らは天然の木にこだわって作っています。
天然の木は硬く、削りごたえがあり、削った時にふわりと檜特有の良い匂いが香ってきます。

しかし人工林の木にはそれが天然と比べると、ほとんどありません。
コストで言うと人工林の方が良い面もありますが、長く使っていくことを考えると、材料にもこだわるべきだと思います。

また天然物を小さい頃から触れてきた僕自身としても、人工林を選ぶ気持ちにはあまりなりませんでした。

……実は個人的な話ですが僕はアレルギー性鼻炎も持っています。
人工林を削った時、必ずと言っていいほどくしゃみがとまらなくなります。

しかし天然の木ではそれほどくしゃみが出ないのです。
そういった体で感じるほど、天然の木は放出される成分がいいのではないかと思います。
檜は安心する香りを放出するなど聞きますよね。

人間の精神や体に良い作用を与える木材だと僕は思います。
それがやはり天然の木は人工林とは比べ物にならないほど感じますね。

田中:人工林と天然の素材でそれほど違いがあるんですね。
そのお話を聞いて、伊藤さんがどれだけ檜を身近に感じて、小さい頃から慣れ親しんでいらっしゃるのかがわかるような気がしました。
そして、天然の檜ならではの効果が体にも現れるのは興味深いですね。
今回の木桶とスツールは天然の木曽檜で出来た、桶数さんに作っていただいた素敵な仕上がりの商品です。
少しでもこの木桶とスツールから、バンクチュールのお客様にも天然木の魅力を感じてもらえたらと思います。

今回は快くインタビューをご対応くださってありがとうございました。
今後も天然材を使った素敵な商品が出来上がっていくのを楽しみにしております!


伝統的な木桶職人である伊藤さんのものづくりに対する想いをお聞きしました。
合わせて、同時投稿の「天然檜で作られた木桶とスツール、受け継がれていく想い(後編)」もご覧ください。
後編では、今回インタビューさせていただいた伊藤さんの実際の作業の様子を見学させていただきました。
その長年培われてきた職人ならでは技術で木桶が出来上がっていく様子を写真と共に紹介させていただきます。

是非下記URLからご覧ください。


 株式会社Tree to Green
▼ご協力
株式会社桶数
伊藤 匠 さま
Mail: okekazu.110@gmail.com
http://okekazu.jp/

=
▼インタビュアー
田中秀幸
ニッコー株式会社 バンクチュール事業部 大阪営業所 営業所長

Photo and text by Tsuido Taichi
TOP